ここでは、木村秋則さん(奇跡のりんごで著名)、高野誠鮮さん(スーパー公務員としての活躍がテレビドラマ「ナポレオンの村」で紹介された)共著の「日本農業再生論」から多くを抜粋し、自然栽培について説明しています。
日本の農業における不都合な真実
ヨーロッパで日本へ渡航する際に渡されたパンフレットに記載されていた内容
「日本へ旅行される皆さんへ。日本は農薬の使用量が極めて多いので、旅行した際にはできるだけ野菜を食べないようにしてください。あなたの健康を害するおそれがあります。」
残留農薬のある野菜を食べ続けると、体内に蓄積され、めまいや吐き気、皮膚のかぶれを引き起こすなど、人体に悪影響を及ぼすとされています。
日本は農薬の使用量がとりわけ高い。
2010年のデータによると上から中国、日本、韓国、オランダ、イタリア、フランスの順で、単位面積あたりの農薬使用量は、アメリカの約7倍もあります。
日本の食材は世界的に見ると信頼度は非常に低く、下の下、問題外なのです。
日本の食材が安全だと思っているのは日本人だけなのです。
たとえば、北海道ではじゅがいものそうか病対策で防毒マスクのようなものをかぶって、ポンプから土壌殺菌剤を噴射しています。
相当毒性が強いので、皮膚に付着したら大変なことになります。
そういうのが付着したじゃがいもを消費者は食べるわけです。
土壌殺菌剤は北海道のほか、愛知、長野、群馬でとくに多く使われています。
いずれもキャベツの有名な生産地です。
硝酸体窒素の危険性をご存じですか。
牛や豚、鶏などの糞尿を肥料として与えたホウレンソウの中に硝酸体窒素が残留し、多くの赤ん坊が亡くなった事件が今から60年ほど前のアメリカでありました。ブルーベビー症候群と呼ばれ、社会問題になりました。とくに葉ものの野菜に未完熟のたい肥を施すと危険です。さらに危ないのは化学肥料です。
EUの基準値は現在およそ3000単位と決められていて、市場に出すことが禁じられていますが、日本ではその基準値を大きく上回る実態があります。農林水産省が不問に付しているからです。コメを検査したところ、最低でも1万2000あったとの報告があります。
日本における3つの農法
一つはほとんどの国でやっている化学肥料、農薬、除草剤を使う一般栽培で、慣行栽培もいわれています。
もう一つは家畜の堆肥や植物性の有機肥料(アシ植物や米ぬか、ナタネの油かすなど)を施すもので、有機JAS栽培、オーガニックとも呼ばれていますが、国が認めた30種類以上の農薬については、使っても良いとされています。
三つめは肥料、農薬、除草剤を使わない自然栽培。日本だけで栽培されています。
自然栽培の食材の栄養価は高い
日本食品標準成分表によると、1951年の野菜や果物と2010年のものを比較すると、
ホウレンソウ ビタミンA 8000IU→700IU、ビタミンC 150mg→35mg、鉄分13mg→2mg。
ニンジン ビタミンA 13500IU→1400IU、鉄分 2mg→0.2mg。
ミカン ビタミンC 2000mg→33mg、鉄分 2mg→0.1mg。
と、化学肥料をほとんど使わなかった昭和26年の野菜や果物の方が、格段に栄養価が高くなっています。
当時は旬のものしか出回らなかったのに対し、今は年間を通して栽培されるので、平均すると低くなります。
自然栽培は旬のものを提供するので、昭和26年と同等の数値となります。
自然栽培の野菜は腐らずに、枯れる
スーパーで売っているホウレンソウやニンジンは冷蔵庫に長い間おいておくと腐ってドロドロに溶けてしまいます。
体にやさしいと言われるオーガニックの野菜や果物もほとんどがそうなります。
化学肥料や完熟していない堆肥を使っているから窒素過剰により腐るんです。
しかもとても臭い。
自然栽培の野菜は山の葉っぱが枯れるのと同じように、腐らずに枯れます。
それが自然の姿なんです。
給食に自然栽培の野菜を
今、化学物質過敏症で悩む子ども、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギーで苦しんでいる子どもが増えています。
農薬や化学肥料、除草剤を使う慣行栽培による汚染で環境が年々悪化し、それとともに日本人の体質も変わってきているのではないでしょうか。
体質変化の大きな原因は、もちろん食べ物にあるのでしょう。
石川県羽咋(はくい)市では2016年1月29日から月に1回「自然栽培の日」を設定、給食を実施していきます。
こういった試みが全国に広がっていくといいですね。
政府の動き
農林水産省はOBが薬剤メーカーや肥料メーカーに天下りしているし、肥料や除草剤を推奨して収入源としているJAや多くの業者が反対する可能性が高い。
関連企業のアドバイザーとなっている学者の壁もあります。
ちなみに、JAはくいでは一般栽培、有機栽培、自然栽培の中から好きな栽培方法を農家が選べるようにしています。
こういった中、衆参合わせた超党派の国会議員で結成する「自然栽培推進議員連盟」が発足しました。
石破前地方創生担当大臣に設立発起人になっていただき、首相夫人の安部昭恵さんも理解者とのことです。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村に世界一安全な自然栽培の食材が提供できるように、著者の木村秋則さん、高野誠鮮さんは働きかけていくそうです。
そして、オリンピックをきっかけに、さらに自然栽培を普及させ、安定した価格でスーパーやコンビニなどに継続して品物が並ぶことをめざしています。
木村式自然栽培はジャポニック
自然農法には岡田茂吉さんや福岡正信さんという先達がいますが、木村式自然栽培は門戸を開放し、権利とせず、世界中に広めたいと考えています。
農薬、肥料、除草剤を使う西洋の農業を根底からひっくり返した日本人が確立した農法ということで、ジャポニックと名付けました。
自然栽培に取り組んでいる人たちのネットワークを作り、生産者へのアドバイスができるようなシステムを作っていかないといけないのです。
自然栽培農家にお願いしていること
① 土作りには3年かかると心得ること。
② 生産者によって収穫のばらつきがあると知っておくこと。
③ これまでの農業の常識を捨てること。
④ 一般栽培うや有機栽培の実施者とのトラブル回避に心をくだくこと。
⑤ 自らが確立した技術を独り占めせず、いっさい隠さず伝えること。
耕作放棄地が自然栽培に適している。
荒廃農地は全国に27万6000ha、そのうち再生利用が可能な荒廃農地は13万2000haもあります。
4年も5年も農薬も化学肥料もまかれていないから、それらの成分が分解されているので、自然栽培がすぐできる可能性が濃厚なんです。
自然栽培に適した土を作るには
リンゴ畑の場合:雑草を刈るのをやめ、土中に養分を与えるために大気中の窒素を土に還元する働きがある大豆を植えました。
すると雑草はすくすく伸び、翌年の夏にはリンゴが落葉しなくなりました。
畑の中ではチョウが舞い野ネズミや野ウサギが走り回り、カエルは害虫のガの幼虫を食べ、大発生したミミズは微生物を含んだフンをたくさんして、畑の土を肥沃にしてくれました。
やがて畑の土が山の土のように変わっていきました。
いろいろな雑草の根にさまざまな菌類やバクテリアが集まり、畑の中に養分を供給してくれたのだと思います。
これで肥料を施す必要はまったくなくなりました。
しかも必要なときに必要な養分を吸収しているので、肥料分が多すぎるということもなく、見事なバランスが保たれているのです。
そのために余った養分を目当てにやってくる害虫が来ることもなくなりました。
これで農薬を散布する必要もなくなったのです。
米の栽培方法
まずは春までに土を乾燥させます。
もともとイネの原種は陸の植物なので、乾かすことにより、乾燥を好むバクテリアの働きが活発化してきます。
ヒビが割れるほど十分に乾燥させた後に土を粗く耕します。
小さくても10cmくらいの大きさまでです。
土の中に空間を作ることで、微生物がより活性化し、自然の肥料となる無機体窒素が増加するからです。
そのあとで生わらを敷き、水を張ります。
イネは土の中でしっかり根を生やしている。
水を抜かずそのままにしておく。
すると葉っぱも米も栄養がゆきわたって丈夫になる。
1本あたりのイネの米粒の数は少ないが重量は変わらない。
そしてなによりおいしい。