第72回

波瀾だった過去・72(17年ぶりの再会)

17年ぶりにかかってきた
突然のSくんからの電話



彼に未練は全くなかったけれど
私が人生で一番辛くて苦しかった
10代の時を知るSくんのことは

私の中で特別な思い出として
常に心にあった



そんな風に特別だった彼を
懐かしく思い出すことがよくあった私は
留守電を聞いた瞬間
本当にドキドキと鼓動がするくらい
それはそれはびっくりした ​​​​​​



17年の間
バッタリ会うこともなければ
連絡先もわからず話すこともなかったので
本当に突然の出来事に
私は動揺した



二股の挙句に私と別れた後
その相手の女性と結婚して子供もいると
同級生からかなり前に聞いたくらいで
どこに住んでて何をしてるのかも
それまでの17年間
全く知らなかった



本当にあのSくんなのか
私はドキドキしながら
その番号に電話をかけた





「もしもし?」


「城戸っち?
俺、Sだよ!」



やっぱり彼だった



突然どうしたの?!
と興奮する私に彼は

ずっと気になっていたけど
連絡先がわからなかったこと

久しぶりに再会した共通の同級生に
城戸(私の旧姓)
の連絡先を教えて欲しいと頼んで
今回教えてもらえたことなど
話してくれた



私はすぐにでも再会したくて
「近々会おう!」と彼に伝えた




ただただ懐かしくて

私が一番荒んでいたあの頃
誰よりも一番近くにいた彼


その頃を知る唯一の人



高校も行ってなくて
小中学校の友達もほとんど居なくて
男友達が1〜2人いる程度の私にとって
10代の頃に一番近くに居た彼と会うことは
言葉にならないくらいの感動だった


それに当時
あれだけ好きだった人


私たちは数日後
再会することにした




昔とほとんど変わってない彼
懐かしくて
私たちはすぐに笑いながら話を始めた



私と別れたすぐ後に
二股をかけてた女性と結婚し
子供も男女二人できたけれど離婚をし
彼は娘さんの方を引き取り
それからはずっと
もう高校生になるという娘さんと
二人で暮らしているとのことだった



そして
付き合っていた時からやっていた鳶の仕事を
人を雇いながらずっと頑張っていたが
数年前に色々大変なことが続き
お酒に溺れる日々を過ごしてしまったことから
身体を壊してしまい
今は生活保護を受けながら
どうにかやっているという



私も生活保護だけれど
今から頑張って
生活を立て直して
人生を立て直すんだという
そんな話を彼にした




「城戸っち、相変わらずすごいな」

「俺にはキラキラして見えるよ」

「あの時、城戸っちと結婚してたら
どうなってたのかなぁ」


今更ながらなそんなことを
彼は微笑みながら話した 「



最後さ、俺が二股かけて別れる時
城戸っち俺に言ったの覚えてる?
いつか絶対後悔させてやるって」


自分が言ったその言葉も
その時の映像も
私は忘れたことはない



「俺、その通り
後悔したよ」



私はこの時ほど
よっしゃ!!!!!と
思ったことはない笑


それまで付き合って来た誰よりも
一番後悔して欲しい人だったから笑



「城戸っち
怒ると怖いんだよな〜」


私自身もあまり覚えてないようなことも
彼は覚えていて
色々と懐かしそうに話していた



私も
当時は本当に好きだったこと

だからこそ二股がわかった時に
私は潔く身を引いたこと
そして絶対Sくんは後悔すると思っていたこと

そんなことを
私は懐かしく話した




そしてふと
笑っていた彼が言った


「俺さ、身体悪くして
多分もう長くねぇんだよ」


「何言ってるの!そんな元気そうで!
そういう人に限って長生きするんだよ!」

私は全く信じなかった



「まぁまぁ笑
でも、多分何年も持たないんだよ」


身体を壊してもう長くないと
彼はそんなことを再会して早々言いだした



「じゃあさ城戸っち
お互い50になっても
誰もいなかったら
今度こそ一緒になろう」



私は軽くあしらいながら
「そうね」と微笑んだ


一ヶ月先さえも
どんな風に暮らしてるのかわからない
そんな人生をずっと送って来たから
一年後もどうなってるか
全くわからないくらいだけど
15年も先の50歳に
彼と一緒になるって
どんな未来なんだろう・・・

一瞬だけ
そんな未来を想像してみた


「体調良くなったら
熱海でも温泉いこうか?」


温泉?!と私はびっくりした

そんなこと一度もしたことないし
デートすらまともにしたことなかった彼から
再会してそんな言葉が色々出て来て
私はうれしい気持ちと同時に
びっくりした


当時はふたりでホテルに篭って
シンナーばかりして
昼間はスロットしてるような
本当にクズのような付き合いだったから
大人になったふたりで
昔では考えられないような会話をしてることが
私はちょっぴり嬉しかった



これからは
ちょこちょこ会おうと話し
私たちは笑顔でまた会う約束をした




そんなある日
離婚後会ったりも話したりもしていない
元旦那さんから連絡が来た


私が生活保護を受けてることを
何かで知ったらしく
子供がいるのに心配だと
そんな連絡だった


鬱になったけれど
これから頑張って人生を立て直すんだと
伝えたものの
小さな子供二人が心配だからと
子供達のために一緒に住まないか?
という提案だった



ヨリを戻す気はないことを伝えたが
そういうことではなくて
子供達のために・・・
という申し出


当たり前だが
私は即答なんてできなかった



仕事がそこそこ軌道に乗ってきたから
生活費もちゃんと渡すからという

大きな一軒家を借りて
沙織の部屋も持てばいい
そうしてみんなで住んだらいい
という有難い申し出だった


だけどそれまで鬱になってまでも
必死でやってきたことが
全て無駄になるような感覚に
私はやるせない思いでいっぱいだった


夜働いて
母にバイト代を払い
身体と心まで犠牲にして
この1〜2年必死にひとりで生きて来たのに
ここに来て元旦那さんのお世話になるなんて・・・

本当に悔しくて悔しくてたまらなかった


だけど子供達を育てながら
生活保護から抜け出して
マイナスから再スタートする術も
正直まだわからない



母にも相談したり
祖母にも相談したり
それはそれは悩みに悩んで
私は最後
泣きながら
本当に涙を流しながら
決断をした



”今はこれしかない・・・”



元旦那さんも再婚相手を見つけて欲しいし
今はお世話になりながら
私も自立に向けて頑張ろう

そう答えを出した



ここから人生が
思いもしない方向に進んでいくとは
予想もしないで・・・