第69回

波瀾だった過去69(K-1優勝した腹違いの弟、そして自分崩壊)

お医者さんに定期的に通うものの
薬も飲まないし
特に何もしてないから
一向によくならない



毎晩子どもたちが寝静まると
涙が止まらなくなる



”死にたい・・・”

もうこの頃は
死ぬことしか頭になかった


だけど
”子供達がいるから死ねない・・・”


その葛藤の日々だった






深夜泣きながら
紀子に話しかける


「紀子、どこにいるの?
今どこにいるの?」


どんなに話しかけても現れない


「ねえ紀子
そこはどんなところ?
飛び降りるってどんな感じ?
ねえ応えてよ・・・紀子」



毎晩、泣きながら紀子に話しかける


「紀子いるの???
応えて、そこはどんな場所なの?」



ある時
風もないのに
カーテンがひらひらと
揺れたことがあった


外の灯りが
うっすらこぼれる深夜の部屋に
窓も開けていないカーテンが
ゆらゆらと
ひらひらと
揺れている



何も聞こえないし
何も見えないけど
紀子が何かを応えてくれてる
そんな気がした






ある診察の日
お医者さんに薬をちゃんと飲むように
勧められた


ちゃんと飲んだら治るから!と
私は半信半疑だったが
藁をもすがる思いで
初めて薬をちゃんと飲むことにした



朝昼晩・・・
1日3回
処方された薬を数錠飲んでみる



そしてだんだんと
自分が自分でなくなる感じに襲われる


生きてるけど生きてないような
そんな感じ


とにかく眠たいし
とにかくゴロゴロしてたいし
とにかくボーッとしてしまう


もぬけの殻のような状態



そして
子どもたちにご飯を出したかどうか
思い出せなくなってくる



今何時で
今何日なのかも
よくわからない



「ママご飯出したっけ?」


「まだだよ!」



今日という日に
子供たちに食事を出したのかどうか
記憶がない




もちろん自分も食べたのかどうか
思い出せない



「ママまだご飯出してないよね?」


「さっき食べたよ!」




もはや廃人・・・・





指示通り
薬を飲み始めて3日目の夜
男友達が遊びに来た


玄関を開けた私を見て
彼はびっくりした顔で

「沙織ちゃん!何飲んだの?!」

そう言うと
慌てて私が正気になるように
お水を沢山飲ませて来た



彼は昔ドラッグをやっていた経験者

冷たいのもあったかいのも経験してた彼は
私の目を見て

「薬物やってる人と同じ目だよ!
もうそんなの飲まないで!!!」

と私の薬を取り上げた





「そうだよねぇ。。。
私もなんか変だな〜と思ってたんだよねぇ・・・」



ポケーっとしたまま話す私に
彼はショックを受けたように
必死で私を正気にさせようとしてくれた



この友人のおかげで
私は3日で精神薬をやめた




ご存知の通り
私もドラッグは10代の時に経験したが
この時の感覚は
まるっきり同じ



なので
今でも私は
精神薬は反対派



飲んでたら
もしかしたら死ぬことはないのかもしれないけど
良くなることもないし
治ることもないと私は思っている






そんなある日
普段全くやりとりしてない
元旦那さんからメールで

”沙織の弟がテレビ出てるよ!”

と連絡がきた




テレビをつけてみると
K-1MAXという格闘技で
腹違いの弟が試合をしていた


父のことや後妻のことから
疎遠になってしまった弟だったが
あれよあれよと試合を勝ち抜き
なんと優勝してしまったのだ



ノーマークの新人が優勝した
シンデレラボーイと言われ
この時は話題になり
どんどんメディアの露出が増えていく



驚くことに
父までがテレビに出て
「いやー嬉しいです!!!」と
満面の笑みで出演している




私は鬱で
死ぬことだけを毎日考えている



だけど父は
子どもである私を捨てたのに
まるで私の存在なんて居ないかのように
弟のことで嬉しそうにテレビにまで出ている




私は悔しくて悲しくてたまらなかった



”同じ子どもなのに
同じ血が流れてるのに
どうして私だけ・・・”




この件で
私は更に自分の人生を
恨んだ


自分の生い立ちを
自分の過去を
そして自分の存在を
消し去りたいと
心の底から願った






鬱だと言うと
色々な人から言われた言葉


「でも可愛いお子さんがいるんだから
いいじゃない!」



その度に私が思っていたこと


”子供がいるからこそ
苦しいこともあるんだよ・・・”

ということ




子供たちの前では泣けないし
悲しい顔は見せられないし
笑ってなきゃいけない


子供たちがいるから
泣いてはいられない

という大きなプレッシャーがあることを
世間の人はなかなか気づかない




もちろん
子供たちが居てくれるから
少しでも笑っていられるし
その可愛さが私の宝物だし
支えでもある



だけど
だからこそ
泣けない苦しみと
笑っていなきゃいけないことが
私には時に辛くてたまらなかったのだ




今、確実に言えることは

子供たちが居なかったら
私はあの時確実に死んでいたし

子供たちが居なかったら
私は今ここには居ない






のちに知り合った人からも言われたことがある


「お前、子供いなかったら
今生きてないな
とっくに死んでただろうな」





子供達がいるから
かろうじて生きている



だけど腹違いの弟の活躍をみるたびに
私は本当に言葉にはできない苦しみを感じていた



”なんで?なんでよ・・・”



なぜ自分だけがこんなに苦しいのか
なぜ自分だけがこんな思いをしてるのか


私を捨て傷つけた家族が
どんどん幸せになってく

ただそれだけが
この時は痛くて苦しくて
たまらなかったのだ



私には
「さおちゃん、なんでも腹割って話して!
お母さんだと思って!」
と言いながら
本当は私の存在を憎み
私が帰った後にずっと
私の一挙一動に文句を言っていたという後妻


そしてそれに同意し
私を捨てた父



その父とその家族が
弟の活躍を幸せそうに
テレビの中で笑っている



ふと弟のブログを見てしまったある日
私は腹違いの妹も結婚したことを知る




私と違い
両親揃った環境で育った妹


高校を出て短大を出て
歯科衛生士となり
そして家族に祝福され結婚




私がずっとずっと
幼い頃から夢見た
普通の人生
普通の暮らし



帰ったら母親が
ご飯を作ってくれていて
「おかえり」
って言ってくれる

そんな普通に家族がいる
ごくごく普通の人生



それを全て持っている妹が結婚した




”同じ父親から生まれたのに
どうして私だけが・・・”



張り裂けそうな孤独感と
言葉にならないほどの
劣等感と悔しさと虚しさの叫び





私を傷つけた家族が
全員幸せになってくのを見て

私の心は
完全に崩壊した・・・