第66回

波瀾だった過去66 自殺

「沙織ちゃん

紀子が・・・

自殺しちゃったよ・・・」



今にも泣き入りそうな〇〇さんの声が
私には現実として受け止められず
しばらくワケがわからずにいた




私の声を聞いて安心したかのように

「紀子が…」

そう言って
〇〇さんは泣き出した




聞けば昨夜
〇〇さんと紀子は
喧嘩になったそう


その後仲直りせず
〇〇さんは眠剤を飲んで寝たらしい



紀子も
睡眠剤を飲んで寝るつもりだったらしいが

〇〇さんが寝てる間に
紀子は10階近い部屋のベランダから
全裸のまま
飛び降りたとのことだった





紀子と出逢った時のことを
思い出す



私と同じ匂いがした紀子



お店に入店してきた時

「ねぇ、すぐ死にたいって
思ったりしない?」

という私の質問に

「え?なんでわかるんですか?!」

とビックリしたように言ってた紀子




元々持ってた自殺願望が
ここにきて
現実になるなんて

私は想像もしてなかった






もうこの時の感情は
言葉で正確に表せないし

表したところで
言葉になると
ありきたりな表現になるから

もうこれ以上は
私に書ける言葉はない




ただ
私は呆然と
信じられない現実を
受け止めることに精一杯だった




この前会った日のことが
ずっと頭を駆け巡る



紀子がかけてくれた
優しい言葉…




誰にも言えずに
紀子にだけ打ち明けた
私の心の闇を

紀子は持ったまま
死んでしまった






〇〇さんから
葬儀の日程を聞き

平日仕事がある私は
とりあえずお通夜に行く旨を伝えた





お通夜当日
会場には〇〇さんと
ほんの数人の組員

そして紀子の親戚?のような
年配の方数人しか居なかった



あれだけお店に貢献したのに
お店からは誰1人来ない



〇〇さんは私を
「ありがとう、ありがとう」と
招き入れた



「あの店のやつ、誰も来やしないんだよ!」


〇〇さんも怒りをあらわにしていた



私もそれは本当にビックリした



辞めて1〜2ヶ月経ったか?
くらいなのに誰も来ていない



そして〇〇さんから
当時の状況を改めて聞いた



喧嘩したことを
ただ悔やむ〇〇さん


私も泣きながら聞くしかできなかった





棺の中の紀子は

静かに

ただ静かに眠っていた





翌日
朝から出勤しなければいけなかったが
午後から出勤することにして
私はやっぱり告別式にも出ることにした



お通夜よりも
さらに少ない人数


〇〇さんと
紀子のお兄さん

そして叔母さんらしき人と
紀子の友達2人くらい


結局お店の人は誰1人として来ず
〇〇さんは最後まで
そのことを悔しそうにしていた


私も同じくらいかそれ以上に
そのことは悔しくてたまらなかった



”あれだけアフターも接客も
誰よりも出勤して
お店に貢献してきたのに
最後はコレかよ”


”人なんてやっぱり
所詮こんなもんなんだな…”





私の中の
父親の後妻に裏切られた
あの日の悔しさや人間不信に
さらに拍車がかかるように


人なんてそんなもん


という思いが
より一層上書きされた






私は紀子の棺に手紙と
約束通り会社のお菓子を入れた



もう涙が止まらなくて

紀子の名前を小さく呼び
紀子の頰を撫でながら

私はずっとずっと泣き続けた




火葬のあと
骨も拾い

私は紀子を
最後まで見送った




そしてこの日に知ったこと

紀子には両親が居なかった


それは元々紀子から聞いていたけど
お兄さんが話してくれたのは

紀子のお母さんも
自殺だったということだった



「母親と同じ道を選んじゃったんですね」



優しそうなお兄さんが
納得させるかのように
穏やかにそう言った






この頃はもちろん今も

紀子が住んでた
このマンションの近くには
未だに行くことができない





人一倍明るく笑う
ギャクセンの高い紀子の
どこかいつも寂しそうな雰囲気と

最後に会った時の
あの日の時間は
今も忘れることはない






週に一回自分を売る生活と
色々なプレッシャー
そして紀子の死


諸々が少しずつ少しずつ
自分でも気づかないうちに
私の心を壊していった