波瀾だった過去63 昼間の世界
ナンバーワンとして数ヶ月頑張っていたが
週3で組長のアフターに行き
深夜までヤクザ屋さんと飲む生活に
徐々に自分の中で疑問が湧いた
アフターではいつも歌を唄わされ
お酒が苦手な私としては
飲まずに歌で逃れられるのはラッキーだが
毎日のようにそんな生活が続き
だんだんと惨めになり始めていた
離婚して自分でやっていけるつもりでいたが
母に支払うお金と生活費のことで
常にお金のプレッシャーに苦しんでいる
誰かの愛人になれたら楽だったのかもしれないが
私にはそこまでの勇気もなく
またそう思えるお客様もいるわけでもなく
子供の頃から憧れていた”普通の暮らし”から
また遥かに離れていることにふと気づく
むしろ普通どころか
ヤクザの幹部クラスの組長さんと仲良くなり
普通からどんどん離れている
”やっぱり普通に
お天道様に恥ずかしくない生活がしたい”
そして何より
私の中で大きかったこと
”子供たちにちゃんと言える仕事がしたい”
もちろん一番長く夜の仕事をしてきて
夜の仕事に偏見があるわけではないし
体力も頭も使う大変な仕事だと思う
ただ私としては
子供の頃からずっと憧れだった
”普通”の生活
”平凡”な普通の暮らしに
人並みならぬ憧れがあったし
夜の仕事をしてる母を見て
子供ながらに夜居ないことが寂しかったし
親の職業をどう説明したらいいのかわからず
よく困っていた経験があったのだ
そんな矢先
可愛がっていた後輩の紀子が
お店を辞めることになった
聞けば
ずっとやりたかった仕事に就くと言う
紀子からの報告
「私ずっとやりたかった仕事があって
それのために頑張ろうと思います」
私はとっても嬉しかった
明るくて面白いけど
心にどこか影がある
私に似た妹のような紀子
その紀子が前向きに頑張ろうとしてる
私も今の生活に
悩み始めていた矢先だったこともあり
求人誌で昼間の普通の仕事を探し始めた
”営業ならお給料がいいかもしれない”
そんな時に見つけた
お土産用のお菓子のメーカー
石川県にあるその会社が
東京に営業を新しく作るために
女性の営業を募集していた
私はすぐに履歴書を送った
今より生活はキツくなるけど
頑張れば昇給もあるかもしれないし
正社員だからボーナスもある
夜の仕事から
普通の仕事に就きたくて
ただその思いで
私は応募した
そして数日後
一次審査が通り面接に
たったひとりだけの採用の中で
お給料や諸々条件がいいその会社
競争率もなかなか高いが
私は持ち前の得意の笑顔と明るさで
採用となった
きっぱりとそのお店を辞めて
私は営業としてその会社に入社した
石川県の本社で2週間の研修
社長さんも社内の人も皆さんいい方ばかりで
その中でも事務員の可愛い女の子と仲良くなり
彼女は色々と私に教えてくれ
2週間の泊り込みでの研修中に
ふたりで食事やカラオケにも行ったりした
社長さんは身体を壊されていたが
包み隠さず夜の仕事から転職したという私に
「だからこそ採用した」
と言ってくれる
本当に温かい社長さんだった
それまでの夜の世界の生活から
まともな普通の生活と
まともな普通の人たちとのふれあいに
私は心が穏やかになるのを感じた
研修を終え
都内のオフィスで仕事をスタートさせたが
正確に言うと
東京支社で
そのお菓子の業務に就いてるのは
私だけ
親会社で別事業をしてる東京支社に
お菓子部門の机を置かせていただいてる
そんな形態だった
関東近県の営業の担当をするのが私で
東京の窓口になるべく
東京支社として新しく立ち上げられ
私ひとりが採用となったのだ
入社して少し経った頃
出勤する駅に向かうバスの中から
ついこの前まで働いていたお店が見えた
朝7時台というのに
お店の外には組長のプレジデントが停まり
組長に気に入られてた姉さんが酔っ払いながら
組長と乗り込む
そんな姿を見て思った
”この前まで私もあそこにいたんだな・・・”
客観的にその光景を見た時に
心の底から
お店を辞めて
昼間の仕事に就いた自分を
誇りに思った
ここから自分の心が
さらに壊れていくことも
想像もしないで・・・