第59回

波瀾だった過去59 組長の存在

その頃、お店と同じビル内に
友人のKが行きつけのダーツバーがあった
 
Kに連れてってもらったことから
私もお店前や後に食事をしたり
休みの日に子どもたちを連れて行ったりと
公私ともに使っていた気兼ねのないお店
 
 
気づけば常連になり
定員さんとも仲良くなって
子どもたちのことも
みんな可愛がってくれた
 
 
その店員のひとりで
Dくんという私より2つ年下の男の子がいた
 
行くと私の子どもたちのことも
とっても可愛がってくれて
本当に優しい優しい人だった
 
 
完全な離婚に向けて
私が部屋を探してるのを知ったDくんは
とても親身になって相談に乗ってくれ
色々な情報を持ってきてくれた
 
 
その中のひとつに
地元にある団地があった
 
礼金がなく敷金3ヶ月分で
保証人もなく借りられる
 
夜の仕事をしてる私にとって
諸々の条件がありがたい物件だった
 
 
そこにしようかと思っていた時
Dくんが言った
 
「僕、お金出しますから」
 
私はびっくりした
 
 
鈍感なわけではないつもりだが
ハッキリ意思表示されないと
相手の気持ちがわからない私にとって
どういうつもりでそう言ってくれてるのか
私にはよくわからなかった
 
 
今となっては
自分がアスペルガーだから
曖昧な表現がわからないと
自分でわかるのだが
この頃はまだ
夜の仕事でも不器用な自分に
相変わらず悩んでいた頃だった
 
 
どうやらDくんは
私に好意を持ってくれて
離婚に向けて自立することを
応援してくれていたらしい
 
そして、その後は
子どもたちの父親代わりとしても
私をサポートしてくれるつもりだったらしい
 
 
それを知ったのは
長男からある日言われた言葉
「Dちゃんね、この前一緒にコンビニ行った時に
ママのことが本当に大好きなんだ〜って言ってたよ。
パパになれたらいいなって。」
 
 
Dくんと長男が手を繋いで
そんな会話をしてる風景を想像したら
きっとDくんのことだから
温かい笑顔で息子に話していたのだろうと
そんな風にありがたくも思った
 
 
ただ、当時の私は
Dくんの優しさ温かさは人として好きだったけれど
大きな愛をくれるDくんに
恋愛感情を持つことができず
その好意に応えられない自分がいた
 
 
今となっては
単に自己肯定が低くて
大きな愛で包んでくれる人を
好きになれない心の仕組みが分かるのだが
この頃は”こういう人を好きになれたら・・・”
と自分の心の奥さえ分からずにいた
 
 
 
Dくんに頼るべきか組長に甘えるべきか
ギリギリまで悩んだ私は
その団地に住むための引越し資金を
組長に工面してもらうことにした
 
 
組長は
「これは個人的に渡す金だから
心配しないでこれで早く独り身になってすっきりしろ」
と、借金とかでなく個人的な協力だからと
私を安心させるように言ってくれた
 
 
反社会的な人ではあったけど
組長自体は本当に男らしくてチャーミングで
人として私は好きだった
 
 
組長を思い出す時のあるエピソードがある
 
 
ある日、お店のイベントで
1日店長ということで
ある有名な元野球選手の方が来たことがあった
 
 
今でもテレビで解説者としても活躍してる方だが
その人が色々な席に着いてお客様と談笑する
そんな1日店長のイベントの日
組長が若い衆を連れてお店に来て
いつものように私は呼ばれて席に着いていた
 
 
若い衆のひとりが
「組長、あいつここの席来ませんね。
ひとこと言って来ますか?」
そう言うと
「いいから、放っておけ」
組長はそう言った
 
 
しばらくして
一番奥の組長の席にその方がまわってきた
 
「いらっしゃいませ」
 
 
組長はその方に
「俺なんかと話してたら
あんたみたいな有名人はどこで何言われるか
何書かれるかわかんねぇ
俺のところは着かなくていいから
他の席を楽しませてくれ」
 
 
するとその方が
「いえ!僕にはそういうの関係ないですから」
 
キリッとした表情でそう言ったかと思ったら
何も無かったかのように
笑顔で他愛もないことを話し出した
 
 
それに組長は嬉しそうに笑顔で話しを聴き始め
球界の裏話や組長の裏話をお互いに話して
しばらく楽しい談笑の時間が続いた
そんな出来事があった
 
 
私は隣で見ていて
”なんてカッコいい大人の男性たちなのだろう”と
おふたりを見て
心がほっこりと暖かくなったのを
今でも覚えている
 
 
そんな組長だったから
仕事は反社会的な人だったけれど
お付き合いをすることを
真面目に考え始めてもいた
 
組長の人柄は素敵でも
反社会的な人たちが
どれだけ怖くて汚いか
後で知ることになるというのに・・・