第54回

波瀾だった過去54(新しいお店)

後日、お店でKに例の一件を話した


「そんな男いたんだ?店の客?
Yちゃんいてよかったな」

「うん、本当に・・・」


改めて、持つべきものは
悪めの友達だと思い知った事件だった



それまでの人生でも
何かあったらそういう友達や知人が
いつも助けてくれた



15〜6の時
街で変な男に襲われそうになった時も
暴走族の友達のおかげで
どうにかギリギリで助かった


16の時
お兄ちゃんのように接してくれて
色々問題があった時に相談に乗ってくれたのも
ヤクザ屋さんだった



18の時
ひとりで寂しい誕生日だった時も
お祝いをしてくれたのは
売人のお兄さん



『悪いと言われる人たちでも
良い人は居る』


そんな昔からの考えが
私の中でまた大きくなった



私にはやっぱり
普通と言われる人生や人脈は
ふさわしくないんだろな・・・
そんな風にさえ思った




私には
自分に対してずっと
思っていたことがある



『私はどうせこっち側・・・』



家に帰れば普通に親がいて
普通に高校行って
普通に就職する

そんな普通の人生の人たちは
あっち側


アングラな裏道しか歩いてこなかった
私はどうせこっち側



川の向こう岸とこっち側のように
そんな風に自分や他人のことを比較して
そこに線引きをして
ずっとずっと生きてきた



子どもができてもなお
私の居場所はこっち側なんだと
そんな風に思った





そのちょっとした事件も落ち着いたものの
夜のバイトを始めても
週3日だけでは
実際問題なかなか稼げない現状に
少し悩み始めていた


子供もいて家事もしながら
夜の仕事をしてはいるものの
実際今のお店ではなかなか稼げない


そもそも週3日なので時給も安い



そんな悩みをKに相談したら


「店、紹介してやろうか?
沙織ならクラブとかでいけんじゃん」


そう言って
その場でKは同じ街にある
クラブのママに電話をし始めた


その店は
その街でも老舗のクラブで
銀座並みの料金をとるらしく
お客さんもかなりVIPな人が多いとのこと


「私なんかで、つとまるのかな・・・」



それまでの結婚生活
冗談だったらしいがオバさんオバさん言われ続け
すっかり女としての自信を無くしていた私は
そんなクラブで自分がつとまるのか
全くもって自信がなかった



「とりあえず一回その店飲み行こうぜ
俺あの店、若い女いないし高えし
あんま好きじゃ無いからほとんど行かないんだけど
連れてきてって言ってるから」


ここでも持つべきものは友達だ


飲みに行って見学がてら
面接をすることとなった


「今、時給2だっけ?25だっけ?
そしたら最低でも35(3500円)って言えよ
時給の交渉は強気でした方がいいぞ」


お客さんを持ってるわけでもないのに
バイトでそれだけもらえたらありがたい


私は後日Kと一緒に
そのクラブに飲みに行くことにした




グランドピアノが真ん中に置いてある
趣のあるお店

キャバクラと違ってカラオケもなく
歴史を感じる


中村玉緒似の
立派な和服を着たママが現れ
私たちの席に着いた


K「友達なんだけどさ
ここで働きたいって言うから頼むよ」


ママ「Kさんの紹介なら是非〜〜♫」


まだ30だというのに
ここでもKはVIP待遇らしい



ニコニコと笑顔で私に
週何日出られるのか?
時給はいくら欲しいのか?
ママが聞いてきた


「とりあえず今は週3日ですが
慣れたらもう少し増やしても・・・」


時給の話になり、Kが
「35は最低でも欲しいってよ!
ママ出してやってよ」


「あら!全然いいわよ!安いわね〜」



久しぶりのクラブの雰囲気に
圧倒されてる中での
そのママの回答に
私はびっくりした


「もっと出勤してくれたら、もっと出してもいいわよ〜」


雰囲気に飲まれたのか
気に入られたかったのか
私は思わず
「週4〜5日も考えます」
と答えていた



「じゃ、とりあえず3500円で
もっと日数出れるようならすぐ上げるわ」


そして小さな声でママが囁く


「ウチ本当はスタートは3000円なのよ
ほら、あの辺の女見て」


違うテーブルの女の子を指差しながらママが言う


「ね、ブスで仕事もできない女よ
週5来てくれるならあんたならもっと出すわよ
決まりね!いつから来れる?」



自分の店の女の子に
そこまで言うママにも圧倒されたが
そんな風に言われて正直悪い気はしなかった


「今のお店にきちんと話してからになりますが
来週からでも是非」



私は気持ち新たに
このお店に移る決意をした



”今のお店と違ってお客様の年齢層も高いし
緊張するけど頑張ろう!!!”



身の引き締まる思いを感じながらも
なんだか自分が少しだけ
価値のある人だと言ってもらったようなことが嬉しく
私は久しぶりにやる気になっていた




それまでのキャバクラに退店の事情を話し
本来なら1ヶ月前に言わないといけないところを
「罰金なしで頼むよ!」という
Kの押しの一言のおかげで
ペナルティもなくその週で即退店することができた



ま、今思えば
そのキャバクラは週3日だったし
年齢も33歳だったし
大して指名も取れてなかったので
そんなに必要な人材ではなかったと
自分では思っている笑


新しいお店は
ママとチーママ
20代から40代くらいまで
17〜8人の女性が在籍していた

更衣室には指名のグラフが貼ってあって
毎月のミーティングで表彰とのこと



入ってすぐの月イチのミーティングで
指名一位で表彰されてる先輩を見て
この時は、私には遠い話だと思って見ていた

”すごいな〜、1位とか”
”あの金一封、いくら入ってるんだろ?”
そんな風に思って
緊張しながら参加していた


入店してしばらくは
「新しい女の子が入ったのよ〜〜!」
とママにあちこち着けさせられた


それでなくても人の名前を覚えるのが苦手で
特にお店の女の子の名前を覚えるのが超絶苦手な私は
とにかく、常連さんの名前と顔だけは!!
と必死で覚えた


緊張の初日
常連さんにひたすらつけられた私は
あるお客さんに気に入られた


飲食店を何軒か経営されてるらしいその方は
初対面の私を口説きはじめた



”よかった、早速お客さんに気に入られて・・・”


ママに早く認めてもらいたいと思っていた私は
常連さんに早速気に入られてホッとした


「今週同伴しよ!」


近くで見ていたママも嬉しそうだった






このお店で
これからたくさんの出会いと体験があるなんて
この時は深く考えもせずに・・・