第48回


波瀾だった過去・48(父の家族)

父の言葉を信じ
私は旦那さんと赤ちゃんを連れて
伊勢原にある父の家へ向かった


初めて会う腹違いの兄弟

そして受け入れてくれる
後妻であるお母さん


家の前に着くと
家族総出で迎えてくれた


浅丘ルリ子似のお母さんが
笑顔で私に駆け寄る

「さおちゃん、いらっしゃい!
実家だと思ってね!」

その瞬間
私の緊張はすっかり溶けていた


築年数の古そうな一戸建てに
父は家族4人で住んでいた


母と離婚した数年後
再婚したその奥さんと
私より6つ下の妹と
8つ下の弟と4人家族


当時、妹は短大生で
歯科衛生士を目指していた


180cmある弟は
まだ高校生だったが
キックボクシングをしていて
パッと見チャラそうな男の子


だけど、妹も弟も
私を笑顔で迎えてくれて
すぐに打ち解けた


古い戸建で
決して裕福そうな家ではなかったけれど
そこには私が憧れ続けた家族像がある


共働きだけど
お母さんが毎日ご飯を作ってくれる家


帰ったら誰かが待ってる
平凡な普通の家


妹はまさに
私が憧れ続けた
『普通』の人生を送っていた


高校を出て
短大に入り
帰れば家族がみんな居る


そんな普通の平凡な
私の憧れの家族


子どものことも
「孫だ!」「甥っ子だ!」と
迎えてくれて
出前で頼んだお寿司を振る舞ってくれては
終始、笑顔で家族団らんの時を過ごした


帰り際もお母さんは

「実家だと思っていつでも来てね!」

と、それはそれは笑顔で言ってくれた


何でもそのまま真に受けてしまう私は
その日を境にその家を
”念願の実家ができた!”
と、本当に嬉しく幸せに感じていた


その後3年間
盆暮れ正月と
長期のお休みがあるたびに
私は子どもを連れて遊びに行った



ある時はみんなでカラオケに
またある時は弟のキックボクシングの試合を見に
そんな家族としての交流は
ずっとずっと続くものだと
私は信じていた



父が先に寝てしまったある夜
お母さんが
「今夜はお酒でも飲んで色々語ろう!」と
笑顔で私に言って来たこともあった


「さおちゃん、腹割って何でも話してね!」

そんな風に言われて
私は本当のお母さんのように
彼女に心を開いた


さらに彼女は私に

「あの頃、さおちゃんを引き取ってたら
どうなってたかしらね〜」

「そしたら、さおちゃんは
そんな苦労はしてなかったかもね〜」


そんなことを言われて
別の人生があったかもしれないことに
私は抵抗しようのない
切ない気持ちに襲われたりもした


”引き取られたかったな・・・”

”引き取られてたら、妹みたいに普通の人生だったのかな”

そんなことが頭の中を占領する


聞けば、父と母が離婚した後
まだ私が幼い頃に
母の働く夜の店に
父と、後妻であるその彼女が
行ったことがあったらしい


「私、赤ちゃんができないかもってお医者さんに言われて
それで、さおちゃんを引き取ろうと
お母さんにお願いしに行ったことがあったのよ」


初めて聞くそんな話

母は断ったとの結末だったが
一瞬それを聞いて

”引き取られたかった・・・”

”引き取られて、普通の学生時代を送りたかった”

そんな風に思ったのだ


「その後ね、さおちゃんのお母さんから
お金が必要だから20万振り込んでって言われて
私がお母さんにお金を振り込んだこともあったのよ」


もう何が何だかわからなかったが
あの母親ならやりかねない・・・と
私は信じ込んでしまった


「確か、城南信用金庫だったわ、そうでしょ?」


母がいつも行っていた近所の銀行だ


”離婚の時
父も相当酷いことを母にしてきたけれど
母も再婚した2人にそんな酷いことをしてたんだ”

そんな風に思った


深夜まで笑いながら
そして時に深刻に
妹や弟もいる中で
私はお母さんと一晩中語り合った



旦那さんとは相変わらずラブラブなんてないし
仕事から帰って来る旦那さんを玄関まで迎えても
子どもには笑顔で「ただいま」を言うのに
私には面倒くさそうにムスッとするだけで
「ただいま」すらまともに言ってくれないような
そんな不満だらけの結婚生活



けれど、寂しがり屋で
いつも「ママママ!」と
追いかけてくれる長男の存在が
私の大きな支えになっていた


保育園にお迎えに行く度に
毎日「かいとーーーーーー!!!」と
両手を広げて叫ぶと
「ママーーーーーーーー!!!!」と
どんな遊びをしてても
満面の笑みで飛んで来る長男


保育園の先生からも

「カイトくんちは、毎日感動のお迎えですね〜」

なんて笑いながら言われるくらい
息子の笑顔が
私の支えだった


そんな風に可愛くて可愛くて仕方ないのに
人間的に未熟だったこの頃の私は
イライラする旦那さんへの不満を
まだ3〜4歳の息子に当たってしまったことも
しょっちゅうだった


その度に
夜一緒にお風呂に入っては

「かいと、ごめんね・・・
今日も怒ってばかりで、本当にごめんね・・・」

と、泣きながら私は息子に謝った


「いいんだよ、お母さんてみんなそんなもんだから」


まだ3〜4歳なのに
そう言って大きな心で
私の弱さを受け止めてくれる息子に
”この子は私より魂の位が高い子なんだろうな”
と、そんな風にさえ思ったものだった




そんな毎日だったけれど
実家のような父の家族ができたお陰か
私にそんな拠り所ができたお陰か
旦那さんへの不満は山ほどあったけれど
私の中から”離婚”という文字を
以前ほど色濃く考える状態は
減っていた



この頃、旦那さんが転職をして
仕事のイライラを私にぶつけてくることも減り
私自身も、念願の実家が出来たお陰で穏やかな日が多く
ひとりっ子の私としては
息子に兄弟を作りたいと思うようになっていた


愛はないけど
穏やかに普通に過ごす日々


この時の夫婦関係が一番穏やかだったと思う


そして2ヶ月ほどで
私は2人目を妊娠した