波瀾だった過去・3(やさぐれていく5歳の心)
祖父との怖くて暗い
厳しい毎日を過ごしながら
私も5歳になった
もちろん
お誕生日なんてものは存在しない
昼間ふらふら一人で
お散歩したり公園にいれば
近所の大人たちは
”あの子幼稚園も行かずに何してるのかしら”
と、冷たい眼差しで見てくる
近所に同じくらいの子供は沢山住んでたが
友達なんて一人もいない
そんなある日
一人の女の子と出会う
ひとつ下のちょっと生意気な女の子
公園で声をかけてくれた時は
私もとっても嬉しくて
お友達ができた♫と
それはそれは嬉しかった
その彼女は
当時の蒲田では有名な
レジャー施設の創設者の娘
お友達ができたと喜んでいたけど
出会って間も無く
彼女は私をバカにし始めた
「なんでそんな服着てるの〜」
「なんであんな家に住んでるの〜
あれって住むところなの〜」
「なんで幼稚園行ってないの〜」
「あんなとこに
お父さんとお母さんも住んでるの〜」
幼稚園も行かず
ボロアパートに住み
親も居ない
今思えばそりゃ当然だ
まだ就学前で
大金持ちの娘からすれば当たり前
笑いながらヘラヘラと
子供のたわ言だったのかもしれないが
侮辱されたと感じた私は
気付いたらその子のお腹に
パンチを食らわせていた
5歳ながら
みぞおちに見事にヒットした
彼女はお腹を抱え泣き出す
そしてその夜
その子と母親がやってきた
「お宅の子がうちの子を殴ったそうです!」
よくドラマなんかで見る
まさにアレだ笑
謝るひいおばあちゃんと私
祖父からは当たり前だが怒鳴られる
惨めだった
悔しかった
私の淋しさも悔しさも
誰もわかってはくれない現実が
とてつもなく悲しかった
”私のことを馬鹿にしたんだよ・・・”
”惨めな子って馬鹿にしたのに・・・”
口には出して言えないけど
そんな想いがこみ上げる
だけどもちろん
誰も私のそんな幼心を
わかってくれる人も
寄り添ってくれる人もいない
やり場の無い想いを抱えて
自分がどれだけ惨めな環境にいるのか
ただ思い知らさせるだけの日が続く
”ママに会いたい・・・”
ひいおばあちゃんは大好きだったけど
一日中ほとんど居ないし
祖父は昼間からお酒を飲み
全然笑わないし怖い
そんな祖父と
狭くて暗いボロアパートに暮らす
そんな毎日が辛かった・・・
そんなある日の午後
久しぶりにまた母がやってきた
この日ばかりは本当に嬉しくて
普段笑顔を封印してる私も笑顔が戻り
無邪気な子供に返る
この日はどうやら
別れた父から
置いてきた母の洋服が届く日だったようだ
みかん箱くらいの段ボールが届く
母が待ちかねてたように
中を開けて一枚一枚服を取り出す
笑顔だった母の顔が凍りついた
”どうしたんだろう?”
子供ながらに不思議に見ていたら
ナイフで切り裂かれた服が出てきた
段ボールから服を取り出した母の手が
目の高さで止まったまま動かない
ビックリした顔から徐々に
青ざめたような表情になっていく
一瞬固まってた母が
我に返ったように次の服を取り出すが
どれもこれも短冊状に切り裂かれている
ビリビリに引き裂かれた服たちが
次から次へと
目の前に現れる
グリーンの綺麗なワンピースも
白い綺麗なジャケットも
跡形もなく切り裂かれている
ナイフなのかハサミなのか
全てが見事に切り裂かれ
当たり前だが
もう着ることなんて出来ない
跡形もないヒラヒラのお洋服たち
母はもう絶句して
声も出ない様子だった
きっと
怒りと恐怖なんだろう
子供の私も
さすがにとても怖かった
”大好きだったはずのパパが・・・
これパパがしたの?”
人の憎悪を目の当たりにし
子供ながらに
人間の怖さを知った気がした
この時の切り裂かれた服の光景は
40年経った今でも鮮明に
映像として脳裏に焼き付いている
人の恐ろしさ
貧困の惨めさ
誰もわかってくれる人がいない孤独
5歳でそれを知った