第38回

波瀾だった過去・38(人間失格)

  • 嬉しそうに彼が取り出した覚せい剤。

    彼の弟も嬉しそうに部屋にやってきて
    3人で愉しもう!ということになった。

    過去のクスリ漬けな自分が頭をよぎる。。。

    24歳近くになって、
    この歳でまた・・・

    だけど、彼の楽しそうな嬉しそうな誘いを断れる
    そんな強い自分はまだどこにも居なかった。


    「スピードしながらのスピード(トランプ)は面白いよー!」

    そう言いながら準備を始める彼。
    それを手伝う弟さん。

    トランプと、アルミホイルと、ストローが
    手際よく目の前に用意されていく。


    『この前、捕まったのに、懲りてないの?』
    そんな不信感が頭をよぎりながらも
    彼の楽しそうな誘いと
    私自身、この家での居場所のない生活から
    現実逃避を求める弱い自分が居た。


    アルミホイルに乗ったそれを慣れた手つきで炙り始める彼。

    順番にまわしながら
    白い煙を身体に入れていく。

    覚醒していく中
    笑いながらトランプ大会が始まる。

    ただただひたすらスピードをする3人。

    ただただひたすら夢中になって。。。

    そして、気付けば朝になっていた。



    「このまま3人でプールに行こう!!!」

    なんだか良くわからないまま
    楽しいことがしたくて
    私たち3人は近くにある国営の大きなプールに向かった。

    少々様子のおかしな3人で
    混み合うプールサイドにシートを敷いて
    日焼けをしたり、おしゃべりしたり。

    多分、この時も
    パキパキな私たちは
    何か様子は変だったと思う。

    そして何より
    あの独特の覚せい剤の匂いが染み込んだ汗で
    分かる人には分かるだろう匂いと
    雰囲気を醸し出していたに違いない。


    帰る頃にはクスリが抜ける脱力感で
    身体中があり得ないほどの疲労に襲われていた。

    吐き気と激しい脱力感と疲労感。


    『何やってるんだ、私・・・』


    せっかく外資系の化粧品会社に入社し
    新宿の百貨店に配属になり
    綺麗なお姉さんとして
    ビューティーアドバイザーの仕事に就いたのに
    また堕落していく自分の生活と精神に
    『もう、なるようになれ・・・』という
    自暴自棄な自分が表れ始めた。


    『どうせ帰る家も、本当に帰れる場所もないんだし』


    根無し草のような人生の
    根無し草のような自分には
    どう頑張っても
    安心して眠れる場所も帰れる場所も
    ありっこないんだと
    また、そんな風にさえ思い始めていた。


    そして数日後、私は仕事を辞めてしまった。


    やっと手に入れた普通の人生だったのに。。。