第37回

波瀾だった過去・37(偽りの家族)

彼が釈放され、私は彼のご両親の要望通り
彼の実家へと引っ越しすることを決めた。

迷いが無かったわけではないけれど、
家族に縁がなくて
いつもひとりぽっちの子供時代から
ずっと家族には憧れがあったし
彼と一緒に居た時間も、
何も問題なく普通に幸せだったから
またそんな毎日が、
今度は楽しい家族がオマケについて
戻って来ると期待していたのだと思う。

今までの人生で、痛いほど
期待したことは叶わないと分かっていたのに・・・


新宿でのビューティーアドバイザーの仕事を続けながら
東京都下の知らない街にある彼のご実家のとっても広い彼の部屋に、
私は一緒に住むことになり、新しい生活をスタートさせた。

彼の家族は、会社社長であるお父様
専業主婦のお母様、そして結婚して近くに住んでる元ヤンだというお姉様、
一緒にこの家に住んでる黒人好きのブラッキーな妹さん(といっても私より年上)と
気さくでいつもニコニコしている弟さん(といっても私の2つ上)という顔ぶれ。

引っ越してご挨拶するも、笑みを見せることなく無表情で頷く妹さん。
この時に一瞬、選択を間違ったかと不安がよぎった。

そしてそれが、大した時間を要することなくまんまと的中することになる。


そう、憧れの家族像なんてこの家にはなく
お父様はいつも黙ってリビングに1人座っている。

お母様は家事をこなしながら、今にも愚痴が出そうな表情で
いつも眉間にシワを寄せ、つまらなそうにしている。

妹さんは自分ワールド全開で、私に全く心を開くこと無く
いつもムスッとした顔で私と会っても無視をするだけ。

唯一の弟さんだけが私には救いだったが
何だか心の奥に弱さを隠した、
ちょっぴりお調子者な感じの男の子だった。

たまに彼と私の部屋に遊びに来ては3人で色々話したり
それくらいが唯一の団らんだった。

家族みんなで食事することも無く、みんなバラバラ。

私が住んだからと言って、その後
お父様も特別話しかけてくることは無く
私は、毎日ただ仕事に行くだけのそんな環境だった。

休みの日に、彼と近所に出かけたりはするものの
帰ってから家族みんなで食事するわけでもないし
お母様からは会うたび家族の愚痴を聞かされ
妹さんのピリピリした対応にとにかく気を遣うばかりで
彼と2人で暮らしていた時の方が
何の気兼ねもなく、自由で楽しく幸せだった。

彼自身も、地元で新しく仕事を始めたものの
以前とは何かが違う彼になっていた。

何かが変わったのではなく、
多分だけど、地の素の彼が出てきたのだと思う。

私への優しさは薄れ、自由きままな彼が
更に自由きままな彼になっていた。


ある日、彼が昔からの友達と飲むから
一緒に行こうと誘ってきた。

振り返れば、彼の友人をそんな風に紹介してもらうのは
初めてだったから、何だか私は久しぶりにウキウキと
嬉しい気持ちになった。


遊び人風な人がちょこちょこと集まっていて
結構な人数居たと思うが、飲み会のピークも過ぎ
そろそろ帰ろうか?という頃
彼が何やら友人とコソコソ話し始めた。

しばらくして「じゃ、帰ろうか!」と
久しぶりの気分転換にちょっぴり満足しながら
ふたりで家路につく。

そして部屋について、彼がおもむろにポケットから
あるモノを出した。

それは嬉しそうに、いたずらっ子のような顔で
「やろうよ!」そう言って彼が出したのは、
パケに入った白い粉。


シャブだった。。。