波瀾だった過去・35(新しい人生)
- 某化粧品会社のビューティーアドバイザーとして
新宿の百貨店での店舗配属も決まり
私は今までにない新しい気持ちで
新しいやりがいある仕事に就き始めた。
そこで一点起きた問題
可愛い制服が支給されるのだが、
そう、私には腕に若気の至りのタトゥーが・・・
制服のサイズを測るということで
先輩が制服をいくつか持って私を更衣室に誘導した。
半袖だと袖丈の長さによっては見えてしまう。
「どうしよう、こんなのバレたらクビになるかも」
そんな想いで不安が襲う。
「腕なんかに入れなきゃよかった」
という早速過去の自分を悔やむ想いが溢れる。
そして制服に着替えながら
その先輩にだけは事情を話して相談しようと
打ち明けてみた。
「実は腕に・・・」
先輩は見てビックリしていたけれど、
最悪サポーターを巻いて対応したら?ということで
どうにか難を逃れた。
美を提供する仕事でタトゥーなんてあり得ないし
そもそも20年前のこの頃、
女性でタトゥーを入れている子なんて
ほとんど居なかった時代。
かろうじて私は難を逃れ
新宿の某百貨店の化粧品フロアで、
外資系企業の有名店の一員として
綺麗な女性達の中でビューティーアドバイザーとしての
新しい人生をスタートさせた。
その仕事は、私の母も嬉しく喜ばしかったようで
一度だけ恋人と一緒に仕事ぶりを見に来たことがあったくらいだった。
私自身も、キラキラとした中でやりがいを持って出来る仕事に
誇りを持っていたし、それまでの人生で一番まともな生活だったと思う。
そんなある日、彼のご両親が面会のためにやって来た。
私はご両親を連れ、すっかり慣れた様子で接見の手続きをし
お二人と一緒に面会室に入った。
ご両親に会いにご実家に行ったことを彼には話していなかったし
ましてや連れて行くことも一切伝えていなかった。
彼は入って来て早々、かなり驚いた様子でゆっくり椅子に腰掛けた。
私が事情を話すのを静かに聞きながら
家出してからしばらく会っていなかったご両親に
彼は謝り始めた。
私は何だかとっても良いことをしてるような
そんな気になっていた。
テレビでよくあるご対面系の番組の司会者にでもなったような
そんな気分だった。
「沙織さんにウチに来てもらいたいと思ってる。
だからお前も帰って来て一からやり直せ」
というお父様の言葉に、彼は驚いた様子で
「沙織いいの?」と私に聞いて来た。
私は躊躇しつつも、必要とされてる感が嬉しくて
つい軽く頷いてしまった。
既に破壊している家族の中に入っていくことになるなんて
知る由もなく・・・