第34回

波瀾だった過去・34(彼のご実家)

  • 外資系化粧品会社の入社が決まり
    一ヶ月の研修がスタートして
    綺麗な同期の女の子に囲まれ
    毎日楽しく、細胞やメイク、接客マナーなど
    みっちり勉強する日々が始まった。

    高校も出ていない私にとって
    勉強できる空間がとっても有り難く楽しくて
    しかもお給料を頂きながら
    大好きな美容について学べることが
    本当に幸せでならなかった。

    それまでプチプラなスキンケアしか使ったことがなかった私は
    ひとつ3000~4000円するお化粧水や
    10000円近くする美容液も社員で使えることになり
    何から何まで楽しくて、本当に充実していた一ヶ月の研修だった。

    ただその間、やらなければいけない彼との問題を片付けようと
    私は取り付けた彼のお父様との約束を果たしに
    東京都下にある彼のご実家に向かった。

    城南エリアに住む私には、今まで行ったことの無い離れた街。

    夕方過ぎの確か18時位だったと思う。

    普通なら夕飯時の家族団らんな時間帯にお邪魔していいものなのか?と
    陽も落ちる時間帯に、私は恐る恐る大きな一軒家のインターフォンを鳴らした。

    出て来たのはお母様。

    大きなリビングに通され、お母様は何故か席を外した状態で
    お父様と2人きりの中、話を始めた。

    彼との出会いから、逮捕に至るまでの一連の流れを一通り話し
    まだ彼は留置場だが、万一私の名義で何かしていた時は
    保証して欲しい旨を伝えた。

    聴けば彼は事業を営むこの家の長男で
    数年前に結婚して跡取りとして事業を継ぐため会社にも入ったが
    離婚することになり、その時にお父様とも喧嘩し
    家出してしまったとのことだった。

    どこにいるかも分からないまま一年近く経っていて
    今に至る・・・という話。

    私も色々なことが繋がり、ようやく彼の事情を理解した。


    もう彼と一緒に住むことは考えてないし
    彼が出て来たらまた仲直りしてこのご実家に戻らせてあげて欲しい
    というお願いもし、万一の保証も取り付けて
    「これで安心♪そろそろ帰ろう」と
    1時間以上話した頃
    それまで固いお顔をされていたお父様が
    少し笑みも出始め穏やかに話し始めた。

    「しかし、よくひとりでこうして来たね。
    君は意志の強い真面目な子なんだと思う。
    君みたいな人が〇〇のそばに居てくれたら
    あいつもちゃんと立ち直れると思う。
    前の嫁は酷かった。
    金ばかり遣って贅沢することばかりで。
    君ならしっかり〇〇をサポートできると思う。
    これから人生やり直していくためにも
    ここであいつと一緒に住んでそばにいてやってくれないか?」

    「え?!」と、想像もしていなかった打診に
    それはそれは戸惑った。

    お母様も呼ばれ、お父様から
    「この人に来てもらいたいと思う」という話をされ
    私はとにかく戸惑った。

    気に入って頂けるのは素直に嬉しい。
    けど・・・・と。

    ひとまず、彼ともちゃんと話してないし
    出て来ないことには始まらないし
    考えさせて欲しい旨を伝え、
    面会に行きたいというご両親の気持ちを汲み
    近々一度面会にお連れする事になり
    わたしは家を後にした。

    考えてもいなかった展開に
    光栄だけど、どうしたらいいのか??と
    私は悩み始めた。

    きっと元々悪い人では無かったのだろう・・・という
    正常な判断もできない自分になり始め
    母からも「追い込まれて大変だったのよ」と言われ
    段々と彼を許してあげたらいいのか?とも思い始める。

    家族と言うものに今まで全く縁がなく
    ずっとサザエさん家のような家族が憧れだった私は
    一軒家でお父様もお母様も居て、妹さんや弟さんまで居る
    そんな大家族な環境にも憧れがあり
    私にも家族ができるのかも・・・という
    淡い期待と憧れが混じった想いが膨れ上がる。

    だけど冷静に考えて、新しく素敵な仕事にも就いて
    その選択が正しいのかどうかが分からない。

    複雑な心境で、私は初めて乗る電車に揺られ
    初めて見る景色を眺めながら家路についた。



    一ヶ月の研修も終えて
    いよいよ緊張の配属発表の日。

    子供の頃から1人で行くほど好きだった
    「銀座」を熱望していたが、配属されたのは
    新宿の某百貨店だった。

    『新宿遠い・・・』
    そんな想いで同期とも笑顔でお別れをし
    みんなでお互い励まし合い
    連絡先を交換し合い
    研修を終え、店舗に配属となった。




    そして、忘れちゃならない
    例の元奥さんの件も片付けないといけないと、
    私は状況をご連絡した。

    まだ留置場に居て、この後拘置所に移動になること。
    まだしばらく家裁での発言はできないこと。
    ご実家にも行って来たこと。などお伝えした。

    元奥さんは「あの家、おかしかったでしょ?」
    「本当に変な家族なんですよ」と色々話して来た。

    この頃の私は誰も信じられなくて
    そもそもどっちがオカシイのかもわからないし、と
    その話も大して本気で受け止めずにいた。



    あとで、その奥さんの言葉が本当だったと
    思い知らされることも知らずに・・・