波瀾だった過去・33(人生の再スタート)
- 彼が逮捕されて数日経ち
彼から手紙が届いた。
謝罪の手紙だったが、正直何が書いてあったのか
今、記憶に無い。
ごめん、ということと
お誕生日おめでとう
ということだった気がする。
そして、いよいよ面会できる日が来た。
緊張する気持ちは膨れ上がり
何から話したらいいのか?
何を聞いたらいいのか?
もういっぱいいっぱいだった。
いつも行く警察署だけど
今日は留置場。
私にとって留置場に行くこと自体も初めてのこと。
手続きをし、面会の部屋に通される。
テレビでよく見る小さな部屋。
プラスチックの壁の向こうに
椅子がポツンと置いてある。
無機質な冷たい小部屋。
その後ろの扉が開くまで
私の心臓はバクバクだった。
足音が近づいて
扉が開く。
そして手錠をかけられた彼が入って来る。
出来れば見たくなかった光景。。。
手錠からはロープが繋がれ
それを持っている警察官。
ペットのお散歩みたいなそんな姿は
出来れば本当に見たくなかった。
椅子に座り、静かに謝る彼。
ここでも何を話したのか
今となっては全く記憶がない。
ただひとつだけ覚えているのは
「私のことを騙してたの?」という質問に
「違う」という答えだけ。
ほんの15分ちょっとの面会は
私にとって、何の安らぎにも安心にもならなかった。
彼にお父様に会うことは一切話さず
私はまた来ることだけを伝えた。
その後、刑事さんがランチでもしようかということで
すぐ隣のファミレスでランチをした。
例のバースデーカードをくれた刑事さん。
私は友達に言われた言葉が頭をよぎり
刑事さんを真っすぐに信じていた気持ちが
少しだけ薄れていた。
「お洒落なお店があるから今度はディナーをしよう」
と笑顔で楽しそうに話す刑事さん。
「なんで夜なんだ??」
「なんでお洒落な必要があるんだ?」
と警戒する反面、
「でも私を元気づけようとしてくれてるのかも・・・」
と信じたい自分もいて
相変わらず私は混乱していた。
「あんたはそれだけ騙されてきて何でまた同じ目に遭うの?!」
「学習能力ってもんないの?」
「誰でも彼でも信じるんじゃないの!」
「人を見なさい!」
何度となく母に、昔からよく母に言われて来た。
だけど、今でもそうだが
「相手が違うじゃん!」
というのが私の考え。
騙された相手が違うじゃんか!と。
新しく出逢った人を、経験から疑うなんて
そんなことは私の考えには無いのだ。
だから、この時も
「そうね!危険だから警戒するわ!」
なんて気持ちもなく
葛藤していた。
結局、スケジュールが合わず
その刑事さんとお食事に行く事はなかったが・・・笑
そして、少しずつ、本当に少しずつだが
気丈な自分も取り戻し
イベントに誘ってくれた友達と打ち合わせをしたり
私はひとりの生活を取り戻しはじめていた。
元々好きだった美容に携われることが楽しくて
女性を綺麗にして笑顔になってもらうことに喜びを感じ始めた私は
求人雑誌で美容の仕事を探し始めた。
デパートの一階によく居る
あの美容部員になりたい・・・と
ある有名な外資系化粧品会社を求人情報で見つけ
私は履歴書を送った。
数日後、一次選考が通過したということで
二次選考のための面接の通知が届いた。
色々ツラいことがあった人生だけど
やっと念願の人並みな普通の人生を始められそうで
心もだんだんと前向きに元気になり始めていた。
友人との美容イベントの日も
お客様にメイク指導を喜んでもらえ、楽しくこなし
その夜は主催の友人とウエスティンのスイートルームに泊まり
前向きな話で語り明かし、気付けば私はすっかり元気になっていた。
むしろ、今まで感じたことのない向上心に溢れ
女性を綺麗に元気にすることで成功するんだ!くらいの
モチベーションになっていた。
そして私は、得意の面接で
その某外資系化粧品会社の面接に合格し
無事に採用が決まった。
初めての大手企業での正社員の仕事。
今までの人生では関われなかった世界に入れることに
私は最高に喜びを感じ、希望に溢れていた。
彼とも別れる気満々で。
その後、彼の世界に巻き込まれるなんて知る由もなく・・・