第27回

波瀾だった過去・27(地獄からの脱出)

  • 深夜の激痛を乗り越え
    翌朝苦しみの中、手術を終えた。

    痛みよりも苦しみよりも
    私を襲うのは
    激しい罪悪感。

    手術を終えた日の夕方には
    病院を後にし
    彼の待つ地獄の生活に戻った。

    「親には流産したって言うよ」
    そう言って、彼は私をいたわるでもなく言った。


    その後も彼のDVは毎日のように続く。

    彼に怒鳴られ蹴られ
    私の体重は38キロまで落ち
    とうとうノイローゼのようになってしまった。

    彼に怒鳴られると
    ユニットバスのバスタブとおトイレの間に逃げ込み
    「来ないでー!!」と狂ったように叫ぶ。

    きっと頭も心も崩壊していたと思う。


    ある日、彼のクルマで外出中に
    「てめえ誰見てたんだ!男か!」と
    訳の分からない嫉妬で3時間胸ぐらを掴まれ
    いつものように恐怖の思いをしたことがあった。

    もう全てが限界値に達していた私は
    誰かに助けて欲しくて
    クルマを飛び降り
    歩いていたオジさんに助けを求めた。

    「助けて下さい!!!」
    オジさんは、何事だ?という顔をしただけで
    通り過ぎて行く。

    逆上し追って来る彼。

    彼に掴まれながらも私はオジさんに助けを求めた。

    オジさんはスルーして行ってしまう。

    勇気を振り絞って求めた助けも
    ただ彼を逆上させただけで失敗に終わり
    その日は一日中彼の暴言と暴力に耐えた。。。


    身体はやせ細り、崩壊していく精神状態の中
    ある朝、彼がいつものように怒り暴れた。

    そして
    「出てけ!てめえ出てけ!!」
    そう言って彼が仕事に出た瞬間
    私は「今だ!」とばかりに
    最後のエネルギーと勇気を振り絞り
    19歳の時に少しだけ付き合っていた彼に電話をした。

    その彼はこのブログには出て来ていないが
    数ヶ月だけ付き合っていたひとつ年下の
    とても優しい人だった。

    もちろん、このDVの彼といる間連絡なんてとってない。

    だけど、助けてくれそうな人・・・・と
    藁をもすがる思いで記憶の中の電話番号に電話をかけた。

    午前中なのに家にいた元カレ。

    「助けて・・・お願い・・・」

    事情を話し、1~2時間で迎えに来てくれることになった。



    そして普段全く連絡を取っていない母親にも連絡し
    行くアテがない事情を話し
    少しでいいから置いて欲しいと頼んだ。


    当時、母は横浜で男性と暮らしていた。

    このとき珍しく母が快諾し
    私は荷物をまとめて母のところに逃げ出した。

    友達のところに行ったら
    また彼に連れ戻される。

    今度こそ連れ戻されない場所へ・・・

    やはり藁をもすがる思いで思いついたのが
    母のところだった。


    2時間後、その元カレと私も知っている彼の友人が
    クルマで助けに来てくれた。

    「早く!早く!」
    帰って来たら殺される・・・という焦りの中
    荷物を全部まとめてクルマに積んだ。


    この家には
    彼が拾って来て飼っていた猫がいる。

    私が名付けた「ドラえもん」

    まだ子猫と言えるくらいの小さなドラえもんが
    玄関まで私を追いかけて来る。


    初めて飼った猫だったけど
    私に懐いてくれて
    初めて動物を可愛いと思えた
    そんな大切な猫だった。


    彼は人間の私にはひどい仕打ちをするけれど
    動物にだけは何故か異常な程優しかった。

    彼が拾って来たドラえもんまで連れて行ったら
    本当に殺されるかもしれない・・・

    でも、連れて行きたい・・・

    だけど母のところに連れて行けない。

    そんなことしたら母のことだから
    ヒステリーにきっと怒って
    家に置いてもらえない。。。


    しばらくそんな葛藤を繰り返したあと
    泣きながらドラえもんにお別れをし
    私は逃げるように全部の荷物を持って彼の家を出た。



    母の家に到着し
    彼から電話が鳴る。


    「もう限界です。別れて下さい」

    今まで怖くて言えなかった言葉が
    私の口から出る。


    連れ戻したいという彼の悲しそうな声をかき消すように

    「離婚届を送るので書いたら送って下さい、お願いします」

    「そして、どうかドラえもんをよろしくお願いします」


    そう言って電話を切った。



    これでやっと、地獄のあの生活が終わる。

    やっと・・・・



    まだまだ心も身体も震えが止まらない中で
    ドラえもんの鳴き声と顔が浮かんで涙が溢れた。


    それだけがただ悔やまれる。。。



    だけど、やっと終わった地獄の毎日を振り返り
    私は8ヶ月ぶりに恐怖のない眠りについた。。。