第25回

波瀾だった過去・25(恐怖の中の妊娠)

  • 死んでしまいたい気持ちもないわけじゃない
    だけど、こんな惨めな生活から逃げ出すために
    死ぬなんてしたくない!と言う想いが溢れ出し
    私は2回、キャバクラ時代の友人の家に逃げ出したことがあった。

    怒鳴られ蹴られ「出てけ!!!!」と言われた時に
    チャンス!とばかりに私は荷物をまとめて家を出た。

    すると、1度目は駅に彼が追いかけて来て
    「ごめん!本当にごめん!もうしないから帰ってきて」と
    謝りたおされ、ほだされ家に戻ってしまったのが一回目。

    2度目は友人の家まで謝りに来て
    土下座をされ、ほだされて戻ってしまった。


    きっとDVに遭う女の子はこうして
    彼の謝罪と情にほだされみんな戻ってしまうのだと思う。

    「ここまで謝ってるなら・・・」という情と
    「こんな反省してるならもうしないかも?」という淡い淡い期待で
    みんな引き戻されてしまうのだろう。

    だけど、誰でもわかることだが
    そんな情も期待も3日と持つことはない。

    あっという間に元の彼、元の恐怖の生活に戻るのだ。



    入籍をしてしまったものの、
    結婚式を挙げた訳でもなければ
    親同士が会った訳でもない。

    友人を集めてお祝いなんてものも
    もちろんしていない。

    誰にも報告せず、誰にも言わず
    恐怖の中で帰れる場所も無く
    どうしたらいいのかわからずしてしまった
    本当に紙切れだけの入籍だった。


    私は自分に言い聞かせるかのように
    「これは結婚じゃない」
    「こんなのは結婚じゃない」
    「私は結婚なんてしていない」
    と、現実を認めないようにしていた。

    実際、今でもこの入籍は無かったものだと思っているし
    人にも話したことはほとんど無い。



    そんな彼との生活を送って半年くらいが過ぎた頃だろうか。

    私は、妊娠した・・・



    結婚しているのだから
    産むのは当然。

    だけど、それを報告したとき
    彼は一瞬躊躇した。

    何故だかは今でもわからない。

    ただ彼は大喜びはしなかった。


    そしてもちろん私も。



    こんな彼の子を産んだら
    きっとこの人は子供を虐待する
    そんな風に思えてならなかった。

    赤ちゃんを抱きかかえ守りながら
    必死で彼からの蹴りに耐える
    そんな未来像しか想像できなかった。



    とにかくまずは病院に行くと言う時も
    彼は私の胸ぐらを掴みながら
    「てめえ、どこの病院行くって?!」
    「男の医者なんかに見せんじゃねえ!!」
    と、病院探しにも嫉妬心をむき出しにし
    彼は妊娠がわかった私にも相変わらず罵倒を続けた。


    当時、女医さんがいる病院を探すなんて容易ではなく
    今みたいにインターネットもあるわけじゃないので
    電話帳で一件一件電話をかけるくらいしか方法はない。

    そんなことをしてる暇もなく
    つわりで毎日もどしてばかりいる私には
    もうどうしたらいいのかわからなかった。

    そんな風に悩んでいた矢先
    彼のご両親の耳に妊娠の知らせが届き
    喜んで電話が来た。


    「病院にはまだ行ってないの?」
    「早く行きなさい!」
    「うちの近くの〇〇病院がいいわよ!」
    と、五反田にある大きな病院をお母様が指定してきた。

    「彼が女の先生じゃないとって・・・」
    私は困った様子で返すと
    彼は何事もなかったかのように
    「そこに行けよ」と。


    私は耳を疑った。


    彼の指示で何日も病院に行けず困っていたのに
    お母様の一言であっさり彼は翻ったのだ。



    お母様に連れられ、私は病院に行き
    「おめでとうございます」
    そう医師から告げられた。



    不安しか無い
    この先に幸せな家庭なんて見えない中での
    おめでとうございますという言葉に
    21歳の私は
    ただただ怖くて不安でならなかった。



    『産んで別れればいい』
    『産んだらすぐに別れてひとりで育てよう』


    不安と恐怖しか無い
    逃げ道がない中で
    そう何度も自分に言い聞かせた。