波瀾だった過去・24(恐怖の日々)
- お店の女の子やお客様から、
豪華に退店のお見送りをして頂いた日を最後に
私はキャバクラを辞めた。
その夜、頂いた花束を抱えて彼の家に行くと
「よかったね、お店辞めてもみんなと仲良くしておいでね」
と優しく私を迎えてくれた。
これから温かい幸せな日々が待っているものだと
私は信じて疑わなかった。
翌日、彼の家に引っ越すこととなり荷物を運び入れることに。
当時流行もあったが、ジュリアナ好きで派手だった私の持ち物は
ゴールドのバッグやゴールドの靴などそれはそれは派手だった(笑)
それをしまおうとした時、突然彼が
「こんなの捨てろ」と見たことのないムスッとした顔で私に言った。
いつも優しく笑っている彼しか見たことが無かった私は
何故怒っているのか理解出来ず、
何より、大事に使って来たモノを捨てろと言われることが
まず理解出来なかった。
だけど、かたくなに捨てろ!と言って来る彼に逆らうことも出来なくて
説得も実らないまま、派手なモノは全て処分した。
そしてその日から、彼の本当の一面が現れ始める。
それはある日、一緒に車に乗っている時に起きた。
信号待ちでふと視線を外に動かした瞬間
「てめぇ!!!誰見てんだ?!」と
いきなり胸ぐらを掴まれ怒鳴られた。
一瞬何が起きたのか分からなかった私は
「外を見てただけだけど、何見てたとかもなく、ただ・・・」
と、恐怖と驚きでただ固まるしか出来なかった。
豹変した彼は、車を脇に止め、私の胸ぐらを掴んだまま
見たことも無い形相で私を怒鳴り続ける。
「だから、誰見てたんだ、てめえ!隣の車の男見てただろ?!」
想像もしなかった言葉に、ただ驚くことしか出来ず
そもそも隣に車が居たのかも分からない状況で
中にどんな人が乗ってたのか全く見ても無く
ただ視線を外にやっただけの私には
もう何が何だか訳が分からなかった。
ずっと拳を振り上げた状態で
今にも殴り掛かる勢いの彼は
それから3時間
ずっと私の胸ぐらを掴んだまま私を怒鳴り続けた。
そんな訳のわからない彼の怒りは
それを機に、ほぼ毎日続いていった。
ある時は、寝起きに続けて2本タバコを吸った私が気に食わなかったらしく
「てめえ!1時間で2本吸ってんじゃねえ!!」と
私の顔めがめて自分の吸ってるタバコを投げつけて来たり。
ある時は、朝お弁当をノロノロ作っていたことが気に食わないと
彼を駐車場まで自転車で見送る途中、私の乗っていた自転車を蹴られ
転倒したことがあったり。
またある時は、外出前に私のポロシャツのボタンが開け過ぎだと怒り出し
「3つも開けんな!2つ閉めろ!」
と、2時間胸ぐらを掴まれ、何度も蹴りを入れられ怒鳴られたり。
そんなことが日常茶飯事となって毎日続いた。
母親や女友達と会うために日中外出する際も
17時に帰ると言ったら、たとえ1分でも過ぎると
拷問のように2時間以上ご飯も食べられないまま
怒鳴られ怒られる。
相手が親でも女友達でも関係ない。
誰とも会えない、軟禁状態のような同棲生活が続き
私はあっという間に体重が38キロまで落ちてしまった。
毎晩、寝る前に思うこと。
『朝目が覚めたら、全て夢だった・・・って元の生活に戻りたい』
それまで、何かツラいことがあれば
『死ねばいい』そう思って生きて来た。
死ぬことは怖いことではなくて
むしろ唯一の逃げ道、楽になれる道。
だけど、この時だけは死にたいと思わなかった。
『こんな人のために死にたくない』
『この悪夢から逃げ出せるなら何でもする』
人は本当の恐怖が起こると
死んで逃げ出そうとは思わないのかもしれない。
きっと、そこ以外は全てマシな世界に思えるからだろう。
それほどの地獄の生活を味わうと
他の世界は天国に思えるのかもしれない。
でも、逃げ出せるチャンスもなければ
もし、そんなことして見つかったら殺される・・・と
ただただ恐怖の毎日だった。
今でも後悔でたまらないのは
私の写真を全て捨てられてしまったこと。
私の過去の写真を全てチェックして
男の子と写ってるものは全て処分をされる。
もちろん元カレのものを捨てるのは私も理解できたけれど
彼のチェックは容赦ない理解不能のものだった。
「この写真はいいよね?」と
私ひとりしか写っていない写真を彼に見せても
「ダメだ、捨てろ!」と怒って言われる。
友人と海水浴に行った時の私ひとりしか写っていない写真。
何がいけないのか聞くと、
「てめえ!指を見ろ!男から買ってもらった指輪してんだろ!写ってんだろ!!」
もう、私の理解できるレベルでは、もはやなかった。
結局、ハタチの時のたった一枚の写真以外は全て、
10代のものは全て捨てられてしまった・・・
深夜に間違い電話がかかって来た時も
「てめえ!今の男だろ!男がかけて来たんだろ!」と
今にも殴る勢いで拳を振りかざしたまま
朝まで怒鳴られ蹴られ追いつめられる。
普段誰とも会わず連絡も取らず
軟禁状態で、彼しかいないのに
男だろ!とあり得ない妄想で怒鳴られる日々。
たとえ数分でも、近所にお使いに行く時は毎回
「今から◯◯にお使いに行ってきます」と電話をする。
近所の美容室に行こうとしたら
「てめえ!ふざけんな!」と
3時間胸ぐらを掴まれ怒鳴られたこともあった。
「そこは男の美容師がいんだろ!」
という理由で、3時間怒鳴られ蹴られ続ける。
3時間怒鳴って暴れて、ようやく落ち着き出すと
「◯◯の美容室なら女しかいないからそっち行け」と
やっと胸ぐらと蹴りから解放されるのだ。
そしてある日、彼から
「結婚したら俺こんなに怒らないから」
と結婚の話を出された。
「今は心配だから束縛して怒っちゃうけど
結婚したらそうならないから、俺だけの女になればそうならないから」
もちろん、そんな言葉を信じていたわけではない。
そもそも付き合って2ヶ月で、しかもこんな怖い人と・・・
でも逃げ出したところで帰れる場所も無い、実家も無い。
逃げ出したところで、別れたところで行く当ても
住むところもない。
結婚って言っても戸籍の問題、紙切れ1枚の問題。
それで、これが終わるかもしれないなら・・・と
元々、人生にも自分自身にも価値を感じていなかった21歳の私は
ただ恐怖から逃れるために、ほんの少しのもしかして・・・のために
行く当てもない諦めから、彼と入籍をしてしまった。
その報告をしに彼の実家に行った時の
お父さんの表情と言葉は今でもハッキリ覚えている。
「本当にいいのかい?これで本当にいいのかい?」
それまで彼の実家には何度かお邪魔していたし
お父さんは優しく温かい方で
私のことも気に入ってくれていたけれど
そんなお父さんから、いつになく真剣な眼差しで
「本当にいいのか?後悔しないか?」と言われた私は
「後悔します!怖くて仕方なくなんです!本当は助けて欲しいんです!」
という言葉が喉まで出そうになっているのを我慢して
お父さんにSOSの視線を送りながら「はい・・・」と答えた。
誰かに気付いて欲しくて、助けて欲しくてたまらない。
取り返しのつかないことをしていることに自分でも気付きながら
逃げ出せずにいた彼の呪縛と恐怖の日々・・・