第52回

波瀾だった過去・52(脅し)


警察官の夢を叶えるために転職するというこのお客さん
(この人の名前は今もう忘れており笑)

連絡先を交換し
同伴するからということで
食事に誘われたが
結構強引に口説いてくる


ちっともタイプではないが
警察官への夢を語る話や
何より羽振りの良さが
なんとも言えない男の余裕に見えてくる


戸籍上は離婚した旦那さん

金銭的に揉めることも多かったからか
この金銭的に余裕のある対応が
もしかしたら魅力に見える
錯覚になっていたのかもしれない


「子どもたちにも美味いもんご馳走するよ!」

当時まだ4〜5歳だった長男
1歳だった次男


そんなまだ小さい子供達も一緒に
ご飯をご馳走になったり
会えば何かしらオモチャを買ってくれたり
子供達の洋服や靴も買ってくれたりと
本当に羽振りが良く気前が良くて
時にはこんなサプライズもしてくれるほどだった


ある日曜日
「少しでもいいからみんなでご飯でも!」
と誘われて食事をした別れ際

「今日は母の日だよ
いつもお母さん頑張ってるんだから
今日は沙織にプレゼントしたいんだ」

と、ブランド売り場に連れて行かれ
シャネルのサングラスをプレゼントしてくれたこともあった


「え??このために今日呼び出したの?」

そういう憎いサプライズが続き
私はすっかりこの人を信頼し始めていた


約7年の結婚生活の中でさえ
そんな嬉しいことをされたことなんて一度もないし
女性ならきっと
こんなことをされたらイチコロになりかねない笑



もちろん嘘がつけない私は
籍は抜いたけど旦那さんと住んでることも
今の生活の現状も全て話していたが
それでもいいからと口説いて来た

「それなら、部屋借りるから家出てこいよ
子供達もみんなで一緒に住もう」

そんなことさえ言ってきた



極めつけは
子供達も大好きな私の祖母(ひいおばあちゃん)
の話をした時
「たまには家族で温泉でも行ってゆっくりしなよ
俺、警察の研修で忙しくて連れて行けないから」と
旅行までプレゼントしてくれたこと


「これだけあれば足りるだろ」

15万円を何の躊躇もなく
その日にすぐ振り込んでくれて
久しぶりに私は
おばあちゃんと子供達と
熱海に2泊で温泉に行くことができた


”家族思いで良い人だ”

そんな風にさえ思い始めていた



家に行くと
警察官のテキストが何冊か置いてあって
今はこんな勉強をしてると話してくる


「配属が決まりそうだよ、新宿署になりそう」
「こんな風貌だし、マル暴になるみたい笑」

そんな風に、私に話してくれていた



同時にその頃
私の母が珍しく連絡をしてきて
初めてうちに来るという
とてつもなく珍しいことが起き
初めて孫にあたる子供達も会わせることになった



ウチは結構複雑で

母方が歴代みんな離婚している


まず私の母がいて
さらにその母にあたる私のおばあちゃん
(よく遊びにもきてくれる子供達のひいおばあちゃん)がいて
さらにその上の母親にあたる
私が18の時に亡くなった私のひいおばあちゃんがいるが
歴代みんな離婚をしている


明治生まれのひいおばあちゃんの時代には
離婚なんてきっと相当珍しかっただろうし
昭和一桁のおばあちゃんにしたって
珍しい話だったはずだ


しかも、それぞれがろくに
母親に育ててもらってないという境遇だったので
それぞれの親子関係が希薄という家庭環境だった


子供の頃は知らなかったが
大人になって色々事情を聞くと

私と祖母は仲がいいが
母と祖母には溝があり
母とひいおばあちゃんは仲が良かったが
祖母とひいおばあちゃんはまた溝があるという
少し複雑な親子関係だった



結婚後の家にも
祖母はしょっちゅう泊まりに来てくれていて
子守をしてもらったり
子供達もふたりとも
ひいおばあちゃんである私の祖母に懐いていた

おばあちゃんも
「ひ孫の面倒を見れるなんて」と
本当にふたりのことを可愛がってくれていた



そんなところに
今まで一度も来たこともない母が
なんの気まぐれか突然来ると言い出し
それまで旦那さんや子供達にすら
会ったこともなかったのに
この頃からたまに遊びにくるようになった



籍は抜いていたけど
母は旦那さんとも少しずつわだかまりが解け

「親としては、あの時は挨拶にも来ないで
妊娠したから結婚するっていうことが
納得いかなかったのよ」

と言う母に、旦那さんも共感し
私の人生でそれまで一度もなかった
母との時間ができはじめた


「おつまみ作るの教えてから帰るよ」なんて
母にお料理を教えてもらうという
ずっとずっとずっとずっと
本当にずっと憧れだったことも起き始めた




そんな母にふと
「今アプローチされてる人がいて」と
警察官に転職した例の男性のことを話してみた


すると、元々疑い深く猜疑心が強くて
直感やインスピレーションで話す母が
「それ、本当に警察?なんか怪しいんだけど」
と言い始めた


私はいつもの疑い深い母の言葉だと
それをかき消すように
色々金銭的にもしてくれる話をした

お金にシビアな母なら
むしろ賛成するだろうくらいに思っていた


「いや、お金振り込んでくれて温泉プレゼントしてくれたり
本当に色々してくれるんだよ」

いくら説明しても
「なんか変な気がする」と聞かない


「何か変だよ、私の勘だけどおかしいって!
もし本当に警察なら、前の会社には居ないはずだよね?
そしたら前の会社に電話してみなよ!名刺もらってないの?」


そんな風に聞かない母に
私は「無駄だと思うよ〜」と
母の前で名刺の電話にかけてみた


「○○さん、いらっしゃいますか?」

「しばらくお待ちください」



「しばらくお待ちくださいって!!!」

私は思わず、動揺してしまった



「はい、もしもし」

そいつ本人が出た


「え?なんで居るの?警察じゃないの?」

そう言って、私はビックリとドキドキで
思わず電話を切ってしまった



母の言う通りだった


それまで、母の特異な考えや勘を
アテにしたり信用してきたことはなかったが
母のいうことを聞いてよかったと
この時初めて思った瞬間だった


”だけど、なんでそんな嘘を?”


素性が嘘だったという男性は
これで二人目。。。


だけど、二人とも意図が全くわからない


お金を騙し取られたとかもなく
むしろ、私の方が色々やってもらってたくらい


意味不明だらけだけど
そんな人とは縁を切ろうと
その夜お別れの連絡をするために
改めて電話をしたら

返って来たのは

「なんで会社に電話してきたんだよ!」
「疑ってたのか?!」
「俺の会社を調べるなんて!!!なんて女だ!」

と、まるでヤクザか?ってくらいに
怒鳴りだす始末


「調べたのかって、何言ってるの
初めて会った時にお店で名刺くれたじゃん」

私に名刺をくれたことを忘れていたようだ


「俺渡したっけ?」
一瞬戸惑ったような感じだったがすぐに

「だけど電話してくるなんて、疑ってたのか!
ムカつくな!!!今までの金返せ!!!」

と、ものすごい剣幕で
豹変した彼がすごんできた


「そんなお金ないよ・・・
だからあのお店でバイトしてんだし」

そう言っても全く聞く耳を持たない



「てめえ!今からそっち行くからな!!!」


”子供たちがいるところに
こんな人が怒鳴り込んできたら・・・”

そう考えただけでも怖くて
「じゃ温泉のお金は返すよ」と言っても


「てめえ、明後日までに20万持ってこい!!」

「20万耳を揃えてもってこい!!
じゃなかったら、今から行くからな!!!」


怖くなった私はとりあえず一度電話を切って
最近再会したお兄ちゃんのようなYさんに電話をした


「Yさん、怖いよ、どうしたらいいかわからないよ・・・」


「どうした?」


いつも優しく話を聞いてくれるYさんの声だけが
その時の私には唯一の頼りだった。。。