第30回

波瀾だった過去・30(衝撃の朝)

  • 彼と付き合いはじめ
    少しずつ、心も安定しはじめた。

    彼がパチンコ屋さんで勉強のため働いていたということもあり
    「行ったら出る台教えてくれるかな?」なんて
    パチンコ好きな母とも
    気さくな彼はすぐに仲良くなった。

    そして、初めて母が普通に認めてくれた男性だった。

    気さくで明るくて優しくて
    自由な雰囲気の彼は
    ご実家が事業をやっているだけあって
    育ちの良さも感じられ
    5つ上ということもあり大人で
    私には一切お金を出させることも無く
    色々なことを私に見せてくれる彼だった。

    某ホテルのメンバーで
    時々、あちこちのそのホテルに連れてってくれる。
    ブランド物に一切無縁だった私に
    シャネルのバッグをプレゼントしてくれたこともあった。

    そんなことをしてくれる男性は初めてだったし
    お金よりも何よりも
    タトゥーの入った私も
    変わった母のことも受け入れてくれる
    私にとっては色々な意味で
    初めて付き合っていて安心できる男性だった。

    付き合って1~2ヶ月経った頃
    寮に入っている彼がウチに来るカタチで
    私は彼と一緒に住み始めた。

    その頃から私もキャバクラはお休みを増やし
    彼と過ごす時間を増やして
    毎日楽しく彼と過ごしていた。

    彼が家賃も全部負担してくれることになり
    私は何から何まで彼に支えてもらいながら
    楽しく暮らしていた。

    そんなある時、突然自宅に
    4歳くらいの女の子を連れて来たことがあった。

    聞けば、母親が毎日のようにその子を連れ
    遅くまでパチンコをしてるそうで
    彼女はいつもパチンコ屋さんの前でひとりで遊んでいたらしい。

    子供好きな彼は、いつも遊んでいてあげてたそうだけど
    見かねて昼間ウチに連れて来たのだ。

    私は、その子と4歳の時の自分が重なって
    まるで自分を見ているかのような気持ちになった。

    3人で遊んだり、一緒にお風呂に入ったり
    たまに泊まりにきたこともあったかな。

    彼はそんな優しい面も持っている人だった。

    彼とは喧嘩することもほとんどなくて
    お互い結婚の話も出始め
    私も彼との将来を考え始めていた。

    ちゃんとした育ちの彼とこんな私・・・
    と、色々心配もあったけれど
    一緒に居て楽しくて、何より安心出来る彼との結婚を
    私も考え始めていた。

    そんなある日、彼が「サイパン行こうか!」と
    私にとって夢のようなお誘いをしてくれた。

    海外旅行なんて一度もしたことない私にとって
    本当に夢のような話だった。

    何も持っていない私にパスポートを取ってくれて
    スーツケースを買ってくれて。

    旅行会社に申込も済んで
    彼とサイパンの本を買って一緒に読みながら
    毎日それはそれは楽しみに
    指折り数えて出発を待っていた。

    きっと、それまでの23年間の人生で
    一番ワクワクしていた数日間だったと思う。

    それまでの
    「人生、楽しみなことは叶わない」
    「期待したら叶わない」
    という子供の頃からの自分のセオリーを忘れてしまう程
    サイパンには絶対行けるものだと思っていたし
    楽しみで楽しみで仕方なかった。


    そして、出発をいよいよ2日後に控えたある朝、
    私の人生はまた、一気に崖から落とされた。


    「明後日はサイパンだ!」なんて言っていた朝
    まだ7時台だというのにインターホンが鳴った。

    「こんな時間に誰だろ?」
    そう言いながら私が玄関を開けると
    そこには男が3人立っていた。

    「大森警察です。〇〇いますか?」

    彼の名前を言う警察。

    一瞬何が起きたのか訳が分からず彼を呼ぶ。

    「〇〇だな、何で来たかわかるな?」

    「はい」
    そう答える彼。

    混乱し、何が何だかわからずにいると
    刑事さんは私に
    「後で荷物など持って来てもらうので連絡します」
    と言い残し
    そのまま彼を連れて行った。。。

    ひとり取り残され、ただただ混乱し
    心がグルグルと一気に波風を立て始める。

    誰に聞くこともできない
    何が起きたのかもサッパリわからない。

    何時間経ったのかも覚えていない。

    そしてやっとしばらくして
    警察から電話が来た。

    「しばらく帰れないから彼の荷物を持って来て下さい」

    何があったのかを聴く私に刑事さんは答えた。

    「窃盗です。窃盗。」

    あの彼が?!と耳を疑った。

    私の事情聴取もしたいとのことで
    私は彼の荷物を持って急いで警察に向かった。

    ただただ、事情を知りたくて。
    真実を知りたくて。
    その一心で、玄関を出た。

    出かける前にふと
    マンションのポストを覗いたら
    そこには彼宛に女性からの手紙が入っていた。

    「ん?だれ?」

    中を開けてみると、そこには
    『あなたと離婚してから・・・・』
    という文字から始まる手紙が入っていた。

    離婚?!
    結婚していたの???
    どういうこと?!

    もはや私の混乱はピークに達していた。

    確認したくても彼は居ない。

    偶然にも彼が逮捕されたその日に届いた
    謎の手紙。

    もう自分では心のコントロールなんて効かなくて
    震える手と震える心を抑えながら
    私は警察署に向かった。


    人生初の取調室に通され
    朝、家に来た刑事さんが優しく私を迎えた。